理学療法士おすすめ!
自宅でできる簡単自主トレーニング

トレーニング

重症筋無力症(myasthenia gravis:MG※以下、MG)の患者さんの中には、身体を動かす機会がほとんどないという方もいるかもしれません。しかし、身体を動かさない期間が長くなると体力や筋力が低下し、転倒や呼吸障害のリスクが高まることも考えられます。

そこで今回は、理学療法士の寄本恵輔先生と加藤太郎先生に、患者さんに適した自主トレーニングについて教えてもらいました。どれも今日から自宅でできるメニューなので、体調が安定しているときにぜひお試しください。

患者さんが自主トレーニングをすべき理由

MGとは厚生労働省の指定難病の一つで、反復的な動作によって筋がすぐに疲れて顔や手足等の筋に力が入らなくなったり、全身の筋力が低下したりする病気です。MGは治療選択がある神経難病ではありますが、病気の症状や徴候の一部またはすべてが軽快した状態でいることは多くありません。

患者さんに対して自主トレーニングするメリットは大きく2つあります。

ケガや転倒のリスクを減らすため

MGの症状として、一つの動きを継続するのが難しく、まぶたや眼球、手足などの筋を繰り返し動かしていると、筋がすぐに疲れて(易疲労性)、力が入らなくなってしまうことが挙げられます。筋を思うように動かせないと歩行が不安定になり、ケガや転倒に繋がる可能性があります。

また、それらのリスクを恐れて活動範囲が狭まると、身体を動かす機会がさらに減り、関節拘縮などの合併症を引き起こすケースがあります。手足や眼、口周りなどが思うように動かせず、日常生活に支障を抱えていらっしゃる患者さんは少なくありません。

そのため、体調が安定している時期に意識的に身体を動かし、筋を鍛えて、転倒のリスク軽減や関節拘縮の予防につなげましょう。

食事や呼吸をスムーズに行うため

患者さんは口周りの筋力の低下により、嚥下や呼吸がうまくいかなくなることが多々あります。嚥下とは、食べ物を飲み込み、口から胃へと運ぶ一連の動作のことです。
嚥下がうまくいかないと「食べ物を噛みにくい・飲み込みにくい」といった症状が現れ、食べたいものが食べられないのはもちろん、栄養不足や脱水状態の原因となる可能性もあります。

呼吸不全(クリーゼ)を予防するためにも、患者さんの自主トレーニングは推奨されています。患者さんは感染症や手術、ストレスなどの誘因によって症状をうまくコントロールできない時期に、呼吸困難に陥るリスクが高まります。

呼吸不全のリスクをゼロにすることはできませんが、呼吸筋の自主トレーニングを行うことで、リスクに備えたり、リスクを軽減したりすることは可能です。

自宅でできる簡単自主トレーニング3つ

ここでは、患者さんが取り入れやすい自主トレーニング方法を3つご紹介します。

なお、以下でご紹介する自主トレーニングは、治療によって症状が安定している時期に行うことを前提としています。体調が良くないときは、治療を優先させてください。無理のない範囲で身体を動かすことが大切です。

(1)膝伸ばし運動

膝伸ばし運動は、主に膝から足首までの筋を鍛えるための自主トレーニングです。「第二の心臓」とも呼ばれているふくらはぎを軽く刺激することで、血流改善にも役立つでしょう。

手順

  1. 1椅子に浅く腰掛けます。
  2. 2膝を伸ばして脚を上げましょう。

ポイント

背筋を伸ばした状態で行いましょう。足先を軽く上に向けることで、ふくらはぎにも力をかけることができます。
難しい場合は椅子の背もたれに寄りかかって行っても問題ありません。

(2)腿上げ運動

腿上げ運動は、主に股関節の筋を鍛えるための自主トレーニングです。

手順

  1. 1椅子に浅く腰掛け、腿を持ち上げます。
  2. 23秒間持ち上げる動作を左右5回ずつ行いましょう。

ポイント

背筋を伸ばした状態で行いましょう。
難しい場合は椅子の背もたれに寄りかかって行っても問題ありません。

(3)スクワット

スクワットは下半身を中心に全身の筋を鍛えるための自主トレーニングです。

手順

  1. 1椅子に浅く腰掛けます。
  2. 23秒かけてゆっくりと立ち上がり、3秒かけてゆっくりと座りましょう。

ポイント

ゆっくりとした動作を意識しましょう。体調が悪い時は無理のない範囲で行ってください。

その他、舌や喉・顎を鍛えることも忘れずに

前述のとおり、患者さんは口周りの筋力の低下により、嚥下や呼吸がうまくいかなくなることがあります。嚥下がスムーズに行われるためには、口や舌の筋を鍛えることが重要です。

ここでは、口周りの筋を鍛えるためにおすすめの運動をご紹介します。



舌の運動

・パタカラ体操
「パ・タ・カ・ラ」と、明瞭に発音しながら、唇と舌を動かします。早口言葉の要領で、10回繰り返しましょう。

・舌の協調性運動
舌先でほっぺたを左右に10回押してみましょう。

・舌の筋を強化し、舌圧を高める運動
スプーンなどを口にくわえ、舌を強く押しつける運動を10回行いましょう。



喉・顎の運動

・喉の筋を強化する運動
舌を前歯で挟んだ状態で、唾液を飲み込みましょう。

・顎の筋を強化する運動
顎の下に指を添えた状態で、3秒間かけて顎を引くと同時に、指を前方へ動かします。顎下の筋を意識しながら、5回繰り返しましょう。

運動を取り入れて健康な毎日を!

患者さんが簡単にできる自主トレーニング方法をご紹介しました。

MGになると、易疲労などの症状により身体を動かす機会が減ってしまいがちです。しかしその状態を放っておくと筋力が低下し、ますます身体を動かせなくなるという悪循環に陥ります。

筋力低下の症状をできるだけ緩和し日常生活をより快適にするためにも、自主トレーニングを取り入れることがおすすめです。治療と併行しながら無理のない範囲で、身体を動かす機会を増やしましょう。

PROFILE

寄本 恵輔 先生

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院 身体リハビリテーション部 第1理学療法主任

・理学療法士
・日本理学療法士協会 専門理学療法士(神経、小児、心血管、呼吸、糖尿病)
・日本理学療法士協会 認定理学療法士(神経障害、呼吸、代謝) 

PROFILE

加藤 太郎 先生

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院 身体リハビリテーション部 理学療法士

・理学療法士
・日本理学療法士協会 専門理学療法士(心血管、呼吸、糖尿病)