少しのアイデアで料理がラクに!
料理研究家が教えるおすすめの料理法や簡単レシピを紹介

食事

仕事や家事、育児など多忙な日々を過ごす中で、易疲労など特有の症状を抱える重症筋無力症(myasthenia gravis:MG※以下、MG)の患者さんにとって、毎日の食事を作ることは一苦労。食材を買いに行くだけでも、大きな負担に感じているかもしれません。

一方、できるだけ自分で好きなものを作って食べたい、家族や大切な人に食べてほしい、そんな思いを持つ方も多いのではないでしょうか。

そんな皆さんのために、お馴染みの料理を少しでもラクにおいしく作るコツを、料理研究家の今別府靖子さんに伺いました。

MG患者さんが抱える料理の悩み

MGの症状として、易疲労性(筋がすぐに疲れる)や眼瞼下垂(上まぶたが垂れて眼がふさがる状態)、複視(両眼で見た時にものがだぶって二重に見える状態)などがあります。

ここでは、それらの症状からくるMG患者さんが抱える料理にまつわる悩みをいくつか紹介します。

(1)買い物が大変

疲れを感じやすい傾向にあるMG患者さんにとって、買い物のための外出は短時間でも一苦労です。手指に力が入りにくいため、重たい荷物を持つことも体に負担がかかるでしょう。

また、スーパーが混雑している時間帯だと、精神的にも疲れがたまる可能性があります。

(2)キッチンに長時間立つのがつらい

筋力低下により、調理中キッチンで長時間立っていることがつらいと感じるMG患者さんもいます。

調理の工数や料理の品数が多いと時間もその分かかるため負担に感じやすいでしょう。その結果、作りたい料理をあきらめてしまう方もいるかもしれません。

(3)手元がおぼつかず調理に工夫が必要

手指に力が入りにくい症状のために、包丁をうまく扱えなかったり、重い鍋を持ち上げるのが大変だと感じるMG患者さんも多いと思います。

そのよう中で無理に行うと、ケガや火傷につながるかもしれません。無理なく、安全に調理するための工夫をすることはMG患者さんにとって重要です。

ラクしておいしい料理ガイド【準備編】

料理は調理をするだけではなく、献立を考え食材の調達をすることから始まります。筋力低下の症状を感じる方は、買い物が大きな負担になることもあるでしょう。

この章では、準備にフォーカスして料理をラクにするヒントを紹介します。

(1)アプリで買い物リストを作成

スーパーに行く前に、アプリを使用して買い物リストを作成してみましょう。紙にメモ書きするよりも、アプリへ入力する方が手指への負担が少なく、出先での確認も簡単です。

また、事前にある程度献立を考えて買う物を決めておくと、外出先で悩んだり、スーパーの中を行ったり来たりする必要がなく、外出の時間を大幅に削減できます。疲れを感じる前に帰宅できれば、買い物に出かけるハードルが下がるかもしれません。

買い物リストは、買い忘れを防げる点もメリットです。無駄にスーパーに行く回数を減らせるため、外出の負担が軽減されるでしょう。

(2)午前中に買い物をすませる

可能であれば、平日の午前中に買い物をすませるのがおすすめです。店舗にもよりますが、多くのスーパーは夕方に混雑する傾向にあります。一方で平日の午前中のスーパーは比較的空いており、気持ちに余裕を持って買い物できるでしょう。

また、お客さんが少ない時間帯は、仮に体調が悪くなったりトラブルが起きたりしても、店員さんがスムーズに対応しやすいでしょう。

特売日は混雑が予想されるため、避けるのが無難です。人混みに揉まれて転倒するリスクも考えられるため、自身が通うスーパーの混雑状況を確認しながら、空いている時間帯を選んで買い物をしましょう。

(3)症状がつらい日はネットスーパーを利用

買い物に行くのが難しい日は、ネットスーパーを利用することも一つの方法です。現在はネットスーパーが普及し 、都心部でなくても利用できる地域が増えています。

ネットスーパーは、スマートフォンだけで買い物が完結し、外出や荷物を運ぶ必要がないことが大きなメリットです。暑い日は、生鮮食品や冷凍食品の購入をためらう方もいるかもしれませんが、移動時間を気にする必要がないのはうれしい点です。
また、商品の売値はやや割高になる傾向にありますが、衝動買いやついで買いなどの無駄な出費をしにくく、結果的に節約できるケースもあります。
さらに、時間に左右されないという点もネットスーパーのメリットの一つとして挙げられます。配達日時を指定するのはもちろん、置き配など配達場所も選択できる業者もあるので上手に活用してみましょう。

ラクしておいしい料理ガイド【調理編】

調理の負担を軽減するためには、包丁の代わりにキッチンバサミやスライサー、みじん切りチョッパーなど、便利で軽量な調理器具を活用することがおすすめです。また、下処理が不要な食材や宅配サービスなどを使うのもよいでしょう。なお、近くに椅子を用意して疲れたら中断する、体調が優れない時は思いきってお休みするなど、無理をしないように行ってください。

この章では、調理にフォーカスして、料理をラクにするヒントを紹介します。

(1)カット済み食材で手間軽減

下処理の手間を軽減したい方は、カット済みの野菜やお肉を使うとよいでしょう。近年は冷凍技術が向上し、カット済みの冷凍食品も非常に高品質になりました。カット野菜や冷凍野菜は生鮮野菜と比べると比較的価格が安定しており、上手に活用すると節約しながら料理の手間を軽減できます。

また、乾物を積極的に取り入れることもおすすめです。乾物自体に旨味があるため、特別な調味料や複数の食材を用意する必要がなく、ラクにおいしい料理ができます。

(2)出来合いのお惣菜や宅配サービスを併用

全て自炊するのではなく、出来合いのお惣菜や宅配サービスを併用して料理をすることへの負担を軽減しましょう。パック詰めのお惣菜でも、お皿に盛り付けると華やかになります。より見た目を格上げするポイントとしては、数種類を盛り合わせたり、薬味や野菜を添えたりするのがおすすめです。

なるべく手作りのものを食べたい、という方はミールキットを利用してみてはいかがでしょうか。ミールキットとは、下処理済みの食材や使い切りの調味料、レシピがセットになったもので、簡単な調理で本格的な料理が完成します。

最近では惣菜や冷凍弁当などの宅配サービスも充実しているため、体調が優れない日は活用してみましょう。

(3)調理は電子レンジを活用

電子レンジを使えば、時短にも繋がり、さまざまな料理を作ることができます。重たいフライパンや鍋を使う必要がないこと、火を使わないためやけどの心配が少ないことなどもメリットです。

かぼちゃやさつまいもなどの硬い食材は電子レンジで少し火を通すと柔らかくなり、カットする負担が軽減されます。ワンボウルで作れる電子レンジのレシピも多く、洗い物を減らせる点も魅力です。調理が終わったら庫内を軽く拭く程度でよいため、後片付けの負担も大幅に軽減されます。

面倒な料理は電子レンジでラクに!おすすめレシピ5つ

重たい鍋や、ケガややけどのリスクがある包丁やフライパンを極力使わずにできる、おすすめレシピを紹介します。
電子レンジを活用して誰でも簡単にできるものばかりなので、ぜひ参考にしてみてください。

コロッケ

コロッケは、食材をみじん切りする、丸めて衣をつける、油で揚げるなど大変な工程が多く手間がかかる料理です。

タネを作るのが大変だと感じる方は、市販のマッシュポテトや冷凍のみじん切り玉ねぎを使うとラクに調理できます。肉じゃがやポテトサラダをタネにするのも一つの方法です。

また、コロッケのタネを耐熱容器に入れてスプーンですくって食べる「スコップコロッケ」にすると成形の手間が大幅に軽減され、見栄えも迫力があって映えるのでおすすめです。


    【材料】
  • じゃがいも(大):2個
  • 合い挽きミンチ:80g
  • 冷凍のみじん切りたまねぎ:50g
  • 塩こしょう:適量
  • 卵:1/2個
  • 薄力粉:大さじ1
  • パン粉:大さじ2
  • サラダ油:大さじ1

    【作り方】
  1. 1.じゃがいもはピーラーで皮をむき、一口大にカットします。
  2. 2. 耐熱容器にじゃがいも、合い挽きミンチ、冷凍のみじん切り玉ねぎを入れてふんわりラップをかけたら、500Wの電子レンジで8分加熱します。
  3. 3.じゃがいもが柔らかくなり、ひき肉に火が入ったらマッシャーで潰して混ぜます。(じゃがいもが硬いようなら、様子を見ながら追加で加熱します)
  4. 4.塩こしょうと卵、薄力粉を入れて混ぜます。
  5. 5.耐熱容器に入れて平らにならし、上からパン粉をふりかけます。
  6. 6.サラダ油をかけ、オーブントースターで約7分焼いたら完成です。(途中でパン粉が焦げそうになったらアルミホイルを被せます)

チャーハン

チャーハンをパラパラに仕上げるために素早く混ぜ続けるのは、MG患者さんにとって非常に大変な調理方法です。また、重たいフライパンをあおるのは難しいと感じる方もいるかもしれません。

そのような場合は、電子レンジを使ってパラパラのチャーハンを作ってみましょう。


    【材料】
  • ご飯:1膳
  • 卵:1個
  • ハム:2枚
  • 小ねぎ:適量
  • 鶏がらスープ:小さじ1
  • しょうゆ:小さじ1/3
  • 塩こしょう:適量

    【作り方】
  1. 1.ハムと小ねぎはキッチンバサミで適当な大きさに切ります。
  2. 2.耐熱ボウルに卵を入れて溶きほぐし、ご飯を入れて絡めます。
  3. 3.その他の材料を全て入れて、よく混ぜます。
  4. 4.ふんわりラップをして、500Wの電子レンジで2分加熱します。
  5. 5.やけどに注意しながら取り出し、加熱のムラができないように一度スプーンで混ぜます。
  6. 6.ラップを外し、500Wの電子レンジで1分半加熱して混ぜたら完成です。

カルボナーラ

カルボナーラは火加減が難しい料理です。またパスタ類全般にいえることですが、茹で加減に気を張って鍋のそばに立っているのも大変ですし、湯切りの際に重たい鍋を運ぶのはやけどのリスクもあります。

パスタ料理も電子レンジで気軽にできます。包丁での調理が負担に感じる場合は、乾燥のスライスにんにくやにんにくチューブを使うのがおすすめです。


    【材料】
  • 乾燥パスタ(7分茹で):100g
  • 水:300cc
  • ベーコン:20g
  • コンソメ顆粒:小さじ1
  • オリーブオイル:小さじ1
  • 乾燥スライスにんにく:適量
  • 牛乳:大さじ2
  • 卵黄:1個
  • バター:5g
  • 粉チーズ:適量

    【作り方】
  1. 1.ベーコンはハサミでカットします。
  2. 2.乾燥パスタは手で半分に折って耐熱容器に入れたら、水、ベーコン、コンソメ顆粒、オリーブオイル、乾燥スライスにんにくを加えます。
  3. 3.ふんわりラップをかけて、600Wで10分加熱します。
  4. 4.取り出したらすぐに牛乳、卵黄、バター、粉チーズを入れて絡めたら完成です。

餃子

餃子は野菜のみじん切りが必要なため、包丁の扱いに不安がある方にとってハードルが高いかもしれません。その場合は、みじん切りチョッパーやミキサーなどを使うとよいでしょう。

また、包み方を工夫すると時短で餃子が仕上がります。


    【材料】
  • 餃子の皮:30枚
  • 豚ひき肉:150g
  • キャベツ:150g
  • ニラ:1/2束
  • 卵:1個
  • 鶏ガラスープの素:小さじ1
  • オイスターソース:小さじ1
  • ごま油:小さじ1
  • にんにくチューブ:2cm
  • しょうがチューブ:2cm

    【作り方】
  1. 1.キャベツとニラをみじん切りチョッパーでカットし、調理用のビニール袋に入れます。
  2. 2.豚ひき肉、卵、鶏ガラスープの素、オイスターソース、にんにくチューブ、しょうがチューブ、ごま油を加えてよく揉みます。
  3. 3.ビニールの端を切って搾り袋にし、餃子の皮の中心にタネを絞ったら、縁に水溶き片栗粉(分量外)を塗ります。
  4. 4.三つ折りにして棒状にします。
  5. 5.熱したフライパンに油を入れたら餃子を並べ、熱湯を100cc注ぎます。
  6. 6.蓋をして中火で5分蒸し焼きにし、蓋をとって水分を飛ばしたら完成です。

クッキーやケーキなどのお菓子

お菓子作りは正確な計量が必要で、準備だけでも時間がかかる傾向にあります。手軽に作るために、ラクに使える調理器具や市販品をうまく活用しましょう。

例えば、チーズケーキやブラウニーの生地をかきまぜる工程は、フードプロセッサーやミキサーを使うと短時間でラクに完成します。ショートケーキは市販のカステラやスポンジ、袋詰めにされたホイップクリーム、ミックスベリーなどを使うと簡単かつ本格的に仕上がります。

さまざまなお菓子に活用できるカスタードクリームは、電子レンジで調理可能です。


    【材料】
  • 牛乳:180cc
  • 卵:1個
  • グラニュー糖:50g
  • 米粉:20g
  • バニラエッセンス:適量

    【作り方】
  1. 1.耐熱ボウルに卵とグラニュー糖を入れて、ホイッパーで泡立てないようによく混ぜます。
  2. 2.米粉を入れてよく混ざったら、牛乳を加えてさらに混ぜます。
  3. 3.ふんわりラップをして、600Wの電子レンジで1分半加熱します。
  4. 4.一度取り出し、ホイッパーで滑らかになるまで混ぜます。
  5. 5.ラップをして600Wで1分半加熱したら、バニラエッセンスを入れて混ぜ、さらに600Wで1分加熱します。
  6. 6.再度ラップをして、粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やして完成です。

少しの工夫でもっとラクに楽しく料理しよう!

MG患者さんが抱える料理に関する悩みは、ネットスーパーやカット野菜を使用することによって軽減することができます。また、電子レンジやフードプロセッサーなどを活用すると、短時間で本格的なおかずを作ることも可能です。

体調と相談し無理はせず、便利な材料や調理器具、助けてくれる人を上手に頼りながら、ストレスなく料理を楽しんでいきましょう。

PROFILE

今別府 靖子 さん

料理研究家・栄養士

有限会社シンクネクスト 代表取締役。健康とおいしいをテーマに、広告、書籍、雑誌、テレビ出演・講演の他、地方自治体や企業向けのレシピ開発などを行う。1989年より女性誌をはじめ料理や撮影の現場であらゆるレシピ制作、料理制作、フードコーディネートに携わり、1999年頃からは娘の小麦アレルギーをきっかけに米粉レシピ(グルテンフリー)にも取り組んでいる。近年は時短・簡単料理の開発にも注力。