【心理カウンセラー解説】
今年1年を心豊かに過ごすために
知っておきたいこと
新年を清々しい気持ちでスタートしたものの、長い休暇の後は、なかなかモチベーションが上がらないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、気持ちを前向きにするための秘訣について、心理カウンセラーの大美賀直子さんに教えてもらいました。今の自分の心理状態もチェックして、心豊かに1年を過ごしていきましょう!
気持ちを前向きにすることのメリットとは
重症筋無力症の患者さんが気持ちを前向きに保つことのメリットとして、行動意欲が湧いてくる点が挙げられます。行動意欲は身体を動かすモチベーションとなります。
重症筋無力症を発症すると、筋肉に力が入りにくくなる「易疲労」の症状が現れ、その辛さから身体を動かす機会が減りがちな患者さんは多いです。
ただ、「身体」が思うように動かないときに、「気持ち」を整えることはとても大切です。気持ちが落ち込んだままだと、物事を進める・行動する(=身体を動かす)意欲が下がってきます。たとえば、「疲れるから何もしたくない」「体調が悪いからあきらめるしかない」などの気持ちから、身体を動かす機会をみずから遠ざけてしまう恐れがあります。
反対に、気持ちを前向きに保つようにしておくと、同じ状況に直面した場合でも、行動意欲が湧きやすくなるでしょう。たとえば、「もう少しだけやってみようかな」「楽しみたい・挑戦したい」などの気持ちから、身体を動かす機会に無理なく結びつきやすくなるかもしれません。
今の心の状態をセルフチェックしてみよう
日々を前向きに過ごすことにはメリットがあるものの、「自分は前向きなのかどうかよくわからない」「体調が安定しない中で気持ちをコントロールするのは難しい」と感じる方もいらっしゃるでしょう。
体調が思わしくない中、いきなり前向きになろうとする必要はありません。前向きになろうと肩肘を張ることで、かえって身体が疲れてしまっては、本末転倒です。まずは心の状態を「観察」することから始めてみてはいかがでしょうか?
ここで、今の心の状態をセルフチェックしてみましょう。
以下に挙げる項目のうち多くにチェックが入った方は、ストレスが蓄積している可能性があります。ぜひセルフチェックやセルフケアの一助としてください。
【外的要因】
□毎日とても忙しく、ゆっくり休めない
□緊張を強いられることが多い
□胸の内をざっくばらんに話す機会がない
□最近、ストレスの多いライフイベントがあった(例:引っ越し、異動など)
【心に現れるサイン】
□1日中憂うつになることがある
□外出が億劫になった
□以前のように趣味を楽しめない
□物事にこだわりやすくなっている
□周囲に気を遣い、自分の評価が気になりすぎる
□イライラすることが多い
□やたらに焦ってしまい、落ち着かない
【身体に現れるサイン】
□睡眠に満足感が得られない
□食が細くなった、あるいは食べすぎてしまう
心理学や医学から見る「ストレス」というのは、生活環境の変化などの外的要因や、個人的な思考の癖などの内的要因が引き金となって、体内に支障をきたしている状態を指します。
ストレス状態が長時間続くと、気持ちが後ろ向きになるだけでなく、自律神経の乱れから全身の不調に繋がりやすいため、早めの対処が必要です。
とくに重症筋無力症の患者さんは、ストレスが誘引となって呼吸困難や呼吸不全(筋無力性クリーゼ)に陥るリスクがあるため、日頃からストレスを溜めすぎないことが大切です。
毎日を前向きに過ごすための10のポイント
心理カウンセラーがおすすめする、毎日を前向きに過ごすための気持ちの整え方を10個ご紹介します。
重症筋無力症の患者さんが実践しやすい項目を中心に取り上げました。「自分にもできそう」と感じた項目があれば、ぜひ無理のない範囲で取り入れてみてください。
(1)小さな目標を立てる
毎日を前向きに過ごすために、小さな目標を立ててみましょう。具体的で達成しやすい目標がおすすめです。立てた目標を達成できた経験を増やすことで、気持ちを前向きに導けます。
何を目標にすればよいかわからないときは、小さな目標を立てる前に「ゆくゆくはこうなりたい」という理想像をイメージするのがポイントです。理想像は、ざっくりとした内容で構いません。
たとえば、「素敵な暮らしをしたい」という理想像があるとします。そのゴールからアクションを逆算していくと、目の前の具体的な目標を立てやすくなります。素敵な暮らしをするために「今月はベランダを素敵にしよう」「そのためにまずはベランダを掃除しよう」など、より具体的な目標が見えてくるでしょう。
重症筋無力症の患者さんは、症状の影響で「できない」と感じる場面が多いかもしれません。どんなに小さな目標でもよいので、「できた」と感じる経験を持つことを大切にしてください。
(2)朝の日光浴をする
気持ちを前向きにするために、朝日を浴びるようにしましょう。朝日を浴びることで、セロトニン神経回路が活性化されるためです。
セロトニンは身体の「アクセル(交感神経)」と「ブレーキ(副交感神経)」を調節する役割を果たしている神経伝達物質です。1日の始まりである朝にセロトニンを活性化させることで、目がすっきり覚める・気持ちが落ち着く・前向きになるなどの作用が期待できます。
セロトニンを活性化させるために、必ずしも外出して直射日光を浴びる必要はありません。ベランダに出る、窓辺で日光を浴びるといった工夫も効果的です。
(3)リズミカルな運動を取り入れる
前述のセロトニンは、リズミカルな運動によっても活性化することが知られています。リズミカルな運動とは、散歩やサイクリングなど一定のリズムを刻むものです。
体調を見ながら「頑張らない・疲れない」範囲で、リズミカルな運動を取り入れるとよいでしょう。
(4)瞑想を取り入れる
気持ちを整えるために、瞑想を取り入れることも有効です。瞑想をすることで、ネガティブな思考や感情をその都度リセットできるためです。瞑想を継続すると、自分を苦しめる思考や感情から上手に距離を取れるようになるといわれています。
たとえば、「マインドフルネス瞑想」は、自分の呼吸や動作などに意識を集中させることで、ネガティブな思考や感情に向いていた意識をリセットできる瞑想です。ネガティブな思考や感情に振り回されそうなときは、瞑想習慣で思考や感情との距離をとるのがおすすめです。
(5)スキマ時間に読書をする
前向きになりたい方は、読書をする習慣を作るのもおすすめです。読書をすることで、自分にはない価値観や気づきを得られるためです。
とくに、「行き詰まりを感じる」「どうすればいいのか悩んでいる」といった状況のときに読書をすることで、現状を打開するヒントを得られることもあります。
最近では紙の書籍や電子書籍、オーディオブックなど、さまざまな形態の書籍があります。ご自身のライフスタイルに合わせて、ぜひ柔軟に取り入れてみてください。
(6)会いたい人に連絡をしてみる
毎日を前向きに過ごすためには、人と会うことも大切です。前述の読書と同様に、人から話を聞くことで、新しい価値観や気づきを得られるためです。
それと同時に、人と話すことで、溜め込んでいた感情が解放・浄化される「カタルシス」の心理作用も期待できます。なお、「楽しかった」と感じられる時間を過ごすためにも、愚痴は控えめにしましょう。
病気を抱えていることで、外出する機会や人に会う機会が減りがちな患者さんもいらっしゃるかもしれません。身体を動かすのが辛いときは、ビデオ会話ツールなどを活用するのもよいでしょう。気持ちを切り替えたいときこそ、ぜひ会いたい人に連絡をとり、意識的にコミュニケーションを取ってみてください。
(7)ちょっと難しいことに挑戦する
自分にとって少し難易度の高いことに挑戦するのもおすすめです。難易度の高いこととは、「慣れていないこと」です。
慣れていないことにあえて挑戦してみることは、脳にとって新しい刺激となります。現状を打開したいときや気持ちを前向きに変化させたいときこそ、あえて難易度の高いことに挑戦して、脳に新しい刺激を与えましょう。
たとえば、「いつもと違う道を通ってみる」「家事をいつもより頑張ってみる」といった些細な挑戦も、脳にとってはよい刺激になります。
(8)自分の長所を紙に書き出す
自分の長所や人から褒められた経験などを紙に書き出すことで、自分を客観的に見つめ直すことができます。
自分の長所は意外と自分では気づきにくいものです。手を使って紙に書き出し、書いた内容を確認することで、自分の長所をしっかりと再認識することができます。マイナス思考に傾きやすい自覚がある方も、定期的に見返すことで落ち込みがちな気持ちを前向きに導きやすくなるでしょう。
(9)小さなことにも「ありがとう」と口にする
気持ちを前向きにするには、「ありがとう」を口にする習慣を作ることもおすすめです。感謝することは、物事を前向きに捉えることに直結するためです。また感謝することで幸福度が高まる心理効果があることも報告されています。
なかなか「ありがとう」と言えない心境のときには、物や状況、自然などに対して感謝してみるのもよいでしょう。「ありがとう」を通じて、物事を前向きに捉える視点をじっくり育てていきましょう。
(10)自分にご褒美を買う
自分への労いの気持ちを込めて、ときには自分にご褒美を買ってみてはいかがでしょうか?自分にご褒美を与えることで、モチベーションアップに寄与するドーパミンという物質が分泌されます。適度なご褒美の存在はやる気を高めるために効果的でしょう。
ただし、ご褒美を買うためにむやみやたらにお金を使う必要はありません。自分自身が持っていて幸せになれるものを自分にプレゼントすることが、前向きに過ごしていくための秘訣です。
新たな気持ちで素敵な1年にしよう!
この記事では、重症筋無力症を持つ患者さんが気持ちを前向きに保つことの重要性や心のセルフチェック方法、気持ちを前向きに整える方法をご紹介しました。
新年は新しい取り組みを始めやすいタイミングです。気持ちが前向きに保てている方も、落ち込みがちな方も、本記事でご紹介したポイントをぜひ無理のない範囲で意識してみてください。新年を心豊かに、前向きに過ごすための一助となりましたら幸いです。
PROFILE
大美賀 直子 さん
メンタルケア・コンサルタント
公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラーの資格を持ち、カウンセラー、作家、セミナー講師として活動する。現代人を悩ませるストレスに関する基礎知識と対処法を解説。ストレスマネジメントやメンタルケアに関する著書・監修多数。