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管理栄養士が教える、食べやすくおいしい食事のコツ&簡単レシピ
病気の有無に関わらず、日々を生きる上で食事から栄養を摂ることはとても大切です。おいしい食事を摂ると、楽しさや喜びも感じることができます。
とはいえ、重症筋無力症の症状が負担となり、好きなものを自由に食べられないということもあるでしょう。また、自分で食事を用意する場合には、食材を調達することや調理することの大変さもあります。
そこで今回は、管理栄養士の小林 玲子さんにお話を伺い、用意しやすく食べやすい、おいしい食事のコツについて教えていただきました。
食事のときにハードルになることは?
重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)では、筋力の低下によってさまざまな症状を引き起こします。なかでも食事の際には、以下のような症状をハードルに感じることがあります。
・嚥下障害
食べ物を飲み込みにくく、むせることがあります。
水分の少ないものや、喉にくっつきやすいものは特に食べづらいと感じるでしょう。
・咀嚼障害
食べ物が噛みにくく、噛んでいると疲れてくることがあります。
硬いものや、弾力のあるものは噛む力が必要なので食べづらいと感じやすいです。
・手に力が入りにくい、疲れやすい
食べる前に皮を剥いたり、ナイフとフォークで切ったりする必要があるなど、手先を使うものは負担になります。また、自分で調理をする際、キッチンに長時間立ったり力を使ったりすることは困難に感じやすいでしょう。
このような点を踏まえて負担の少ない食事を用意すると、「いつも似通ったメニューになるから、栄養も偏るし、飽きてしまう」という方も多いかもしれません。そこで、おいしく充実した食生活を送るにはどうしたら良いのか、以下に解説していきます。
出典
「食べやすい」と「おいしい」は両立する!
「食べやすいこと」と、「おいしく・楽しく食べられること」は、両立させることが可能です。「食べやすい」と感じるのは、ストレスなく食事をできているということ。「食べやすい」と感じるものの中から、自分が好き・おいしいと思うものを見つけて増やしていくと、食生活はどんどん充実していくでしょう。おいしい・楽しいと感じるものは人によって違うので、様々なものを食べてみることをおすすめします。
咀嚼・嚥下しやすい料理はたくさんある
咀嚼・嚥下しやすい料理というと、おかゆやスープを連想する方が多いでしょう。もちろんそれも正解ですが、他にも様々なものがあります。例えば、柔らかく煮たうどんなどの麺類、魚の煮物、また、肉も柔らかいものをあんかけなどにすると食べやすいです。さらに、ゼリー状にしたり調理法を変えたりすることで、実に多くの食材を食べやすくすることができます。
食べられないものよりも「食べられるものの多さ」を感じて
以前食べられていたものが食べられなくなったり、病気によってできなくなったことを実感したりすると、誰しも気分が落ち込んでしまうものです。しかし、「できなくなった・食べられなくなったもの」に注目するのではなく、今「できること・食べられるもの」に意識を向けてみてください。咀嚼や嚥下がしづらくなったり、手に力が入りづらくなったりしても、工夫すればおいしい食事を摂ることができます。ぜひその喜びを感じながら豊かな食生活を送ってほしいと思います。
食べやすくておいしい食事のコツ
ここからは、何をどのように食べたら良いかなど、食べやすくておいしい食事にするための具体的な方法をご紹介します。
食べやすくなる食材を選ぶ
食べやすい料理にするのに、特に重宝するのは、とろみを出すことができる“つなぎ食材”です。とろみが付くと、食べ物が口の中でまとまり、飲み込みやすくなります。とろみを出す食材には、山芋、じゃがいも、玉ねぎ、米粉、たまごなどがあります。食べにくいと感じる食材も、これらを加えることによって食べやすくなるでしょう。
また、喉の滑りを良くするには油も有効です。油にも様々な種類があるので、ごま油、オリーブオイル、米油など、複数の油を使い分けると、味や香りの違いを楽しむことができます。
調理法を工夫して食べやすくする
・切り方
食材をすり下ろしたり、野菜や肉は繊維を断ち切るように細かく切ったりすることで食べやすくなります。とはいえ、自分でそのような調理をすることはなかなか大変だと思いますので、市販の食材を使うことも視野に入れると負担が軽くなるでしょう。冷凍とろろや、柔らかく茹でてから冷凍されたブロッコリーなど、スーパーやコンビニで手に入るものがたくさんあります。
また、粉状になったおからや芋類を購入すれば、おかゆやスープ、いつものおかずに混ぜることで、手軽に味や香りを変えたり、栄養価を高めたりすることができます。
・二度調理
少々手間はかかりますが、準備が可能であれば、焼いてから煮る、揚げてから煮るなど、二段階で熱を加える“二度調理”がおすすめです。例えば、なすの煮浸しや魚の南蛮漬け、鶏肉の揚げ煮などの料理があります。食材が柔らかく・食べやすくなりますし、メニューのバリエーションも広がります。
・煮込む
鍋で煮込むことで、豆や根菜などの固い食材も柔らかくなり、食べやすくすることができます。圧力鍋を使うと、短時間で効率的に調理ができおすすめです。
・炒める
炒めものは食べにくいと思う方も多いかもしれませんが、炒める前に下茹でしたり、電子レンジで一度加熱したりすると、柔らかくて食べやすいメニューになります。
・蒸す
蒸し器やせいろを使って蒸すことでも食材を柔らかくできます。
・ゼリー状に固める
ゼラチンなどを使ってゼリー状にしても食べやすくなります。水分量で固さを変えられるので、自分の食べやすい固さに調節してください。
・市販品もうまく利用する
介護食やベビーフードなど、咀嚼や嚥下がしやすい食品を購入して食べる方法もあります。咀嚼力・嚥下力によって段階が設けられている商品が多いので、自分に合ったものを見つけやすいでしょう。
献立の組み立て方
栄養バランスを考えることは大切ですが、毎食細かく考えすぎると、かえってストレスになってしまうこともあります。
そこでおすすめなのは、“5つの味覚と5つの色”を食べることです。5つの味覚とは、「甘い、辛い、苦い、しょっぱい、酸っぱい」です。色は、赤、黄色、緑、黒、白など、食材の色のことです。1回の食事で「5つの味覚と5つの色」を摂るようにすると、自然と栄養バランスが整い健康的な食事になります。5つが難しければ、2つ、3つでも良いので、できるだけ多くの種類を摂るようにしましょう。
おすすめレシピ&献立例
ここまでの内容を踏まえて、食べやすくおいしい献立例をご紹介します。
食べやすさやおいしさは人によって違いますので、ご自分の症状や嗜好に合わせてアレンジしながら活用してみてください。
1週間の献立例
1日3食、1週間分の献立例です。赤字のメニューについては詳しいレシピを下記にご紹介します。
※レシピは全て1人分の分量です。
長芋もずく汁
- 【材料】
- 長芋:50g
- 熱湯:150ml
- かつお節:ひとつまみ
- (A)もずく:30g(味無し)
- (A)しょうがすりおろし:小さじ1/2
- (A)みそ:小さじ2
- 【作り方】
- ①お椀に長芋を皮ごとすりおろす
- ②(A)を加えてよく混ぜ、熱湯を注ぎ、かつお節を添える
たらこ豆腐のあんかけ
- 【材料】
- 豆腐:1/4
- たらこ:12g
- だし汁:小さじ1/2
- 片栗粉:小さじ1/2
- バター:5g
- 万能ねぎ:1本
- (A)だし汁:1/4カップ
- (A)酒:小さじ1
- (A)みりん:小さじ1
- (A)醤油:小さじ1/2
- 【作り方】
- ①豆腐は水切りをして食べやすい大きさに切る(手でつぶしても良い)
- ②たらこはスプーン等で、中身をしごき出し、だし汁小さじ1を入れてほぐす
- ③(A)を煮立て、豆腐を入れる
- ④③の豆腐に②のたらこを入れ、煮立ったら水炊き片栗粉を回し入れてバターを加える
- ⑤小口に切った万能ねぎを散らす
卵黄入りオートミール
- 【材料】
- オートミール:1/2カップ(30g)
- 熱湯:100ml
- 豆乳:100ml
- ハチミツ:大さじ1
- 卵黄:1個
- プルーン:2個
- 【作り方】
- ①オートミールに熱湯を少しずつ加え混ぜ、2~3分火にかける
- ②豆乳、ハチミツを加えてひと煮立ちしたら卵黄を加える
-
③器に盛り付けたら、フォークでつぶしたプルーンを飾りつける
(プルーンはそのままでも可)
はんぺんのチーズピカタ
- 【材料】
- はんぺん:1枚
- スライスチーズ:2枚
- 小麦粉:少々
- 卵:1/2個
- パセリ(生みじん切りまたは乾燥)
- サラダ油
- 【作り方】
- ①はんぺんは2つに切り、中央に切れ目を入れる
- ②スライスチーズを四つ折りにし、はんぺんに挟み込む
- ③はんぺんに小麦粉をつける
- ④卵を溶き、パセリを入れる
- ⑤はんぺんに卵を付け、油を熱したフライパンで焼く
アボカドポテトサラダ
- 【材料】
- アボカド:1/4個
- ジャガイモ:大1/2個
- 人参:10g
- 塩:少々
- こしょう:少々
- マヨネーズ:大さじ1/2
- 【作り方】
- ①ジャガイモは皮付きのまま、電子レンジで約3分加熱、裏返してさらに3分加熱する
- ②①の皮をむいて潰し、塩・こしょうを加えて混ぜ、粗熱を取る
- ③人参はみじん切りにし、レンジで1分加熱する
- ④じゃがいも、アボカド、人参、マヨネーズを混ぜ合わせる
アボガドカッターを使うと便利です
自分に合った食べ物を見つけて、楽しい食生活を作ろう
最後に、小林さんから読者の皆さんへのメッセージをいただきました。
「私は40代から難病を患い、その治療のためのステロイド剤による副作用も非常に重かったため、メンタルが崩れて落ち込んでしまった経験があります。その時に、管理栄養士としての知識や技術を活かして何かできないかと考え、いろいろな食べ物や食べ方を試してきました。その経験を活かしながら、さまざまな方からの相談に乗ったり、健康のサポートをさせていただいたりしていますが、どんな食べ物がその人の身体に合うかというのは、本当に人それぞれです。ですから、いろいろな食べ物を食べてみて、自分が安心しておいしく食べられるものを見つけ、それをどんどん増やしていくことが大切だと感じています。 自分の身体や病気と付き合えるのは自分しかいないので、自分自身で向き合っていかなければなりません。ただ、これは決して孤独なことではありません。私たちのような管理栄養士や医師、家族などの身の回りの人にもたくさん頼りながら、無理せず、頑張りすぎずに、長い目で病気と付き合っていけると良いと思います。
また、食に関しては、何を食べるかも重要ですが、受け入れる心身の状態も大切です。病気になると何かとネガティブになりがちですが、どうか気持ちの面でも無理をせずに、自分が快適だと思える環境を整えて過ごしてみてください。そうすることで、食事もよりおいしく・楽しく食べられることと思います。
皆さんが少しでも豊かで充実した食生活を送れるように願っています!」
PROFILE
小林 玲子 さん
管理栄養士。自身が難病を患ったことをきっかけに食事や生活習慣を見直し、栄養学を学ぶ。クリニック勤務を経て、現在は「栄養サポートセンター アンダンテ」の代表として、栄養学はもちろん医学や心理学の観点も取り入れ、多くの人の健康をサポートしている。