自分らしく働こうー治療との両立&仕事探しのポイント

自分らしく働こうー治療との両立&仕事探しのポイント

重症筋無力症になったことで休職・退職した方や、この先就職が難しいのではと不安に感じている方は少なくないでしょう。自分の適性や体調を踏まえると、どのような業務内容や勤務時間で働くべきかわからず悩んでしまうこともあるかもしれません。また、妊娠や出産、育児、介護などのライフイベントに合わせて、働き方を変える必要が出てくる場合もあります。
そこでこの記事では、難病を抱える方の就労支援を推進している春名 由一郎さんにお話を伺い、重症筋無力症を抱える女性が仕事と治療を両立するためのポイントや、新たに仕事を探す際に知っておきたい点について伺いました。

重症筋無力症の方が抱える「就労」の悩みとは?

重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)では、神経と筋肉の間の信号伝達の障害で、筋力低下や疲れやすさの症状が起こりやすく、休憩により回復します。その影響で、就労するにあたり以下のような問題が生じることがあります。

  • ・筋力低下や疲れやすさによって、休憩なしで1日8時間のフルタイムの仕事、立ち仕事の継続、力仕事(ビンのふたを開けたりも含む)などが難しい
  • ・体調が安定していても検査のため、月1回あるいは数ヶ月に1回の定期通院が必要で、症状が安定しない状況では突発休が生じる可能性がある
  • ・夕方などにまぶたの筋肉が疲れて落ちてくる「眼瞼下垂」やピントが合わない「複視」によって、パソコンやスマートフォンでの作業に支障が出ることがある
  • ・外見からわかりづらい症状が多いため、周りに理解されづらく、必要な配慮が受けられないことがある

これらのお悩みを解決するためにどのように行動すれば良いのか、職探し、就労、休職など、シーンごとに解説していきます。

出典

  • https://ucbcares.jp/patients/gmg/ja/content/1152910757/symptom-variations
  • https://ucbcares.jp/patients/gmg/ja/content/905168120/patient-voice-index

(1)職探し

まずは、就職するための「職探し」についてのポイントを解説します。

どんな職種で何時間くらい働ける?

症状が悪化する可能性もある中で、職種や勤務時間などの労働条件をどのように決めたら良いかわからず困ってしまうこともあるでしょう。そのために、「重症筋無力症であることを隠してパートタイムの仕事に就き、体調が悪くなったら退職する」ということを繰り返している患者さんは多いです。しかし、キャリアアップや安定した収入を目指しているのであれば、必要な配慮を受けながら長く続けられる職に就くことが理想的です。

そのためには「重症筋無力症向きの仕事」ということを考えるのではなく、まずは「自分がやりたい仕事」「自分が活躍できる仕事」は何かを考えてみてください。あなたが適性や意欲を発揮して活躍できる仕事を考えることが一番で、それが大前提で、企業や支援者は、難病や障害のある人へのバリアーをなくすための検討をすることができます。

実際に治療と仕事を両立するためには、職場側の休憩のとりやすさや通院のしやすさ等の調整も不可欠になってきます。一人で悩まず、ハローワークの難病患者就職サポーターに相談するなどして、あなたが無理なく活躍できる就職先を見つけ、職場の条件を確保することが大切です。ハローワーク以外にも、地域の難病支援センターや、学生の場合は学内のキャリア支援センターなども活用できます。親身になって考えてくれる支援者を見つけ、相談しながら、自分に合った条件や働き方を固めていくと就職活動を進めやすいでしょう。

一般雇用と障害者雇用、どちらで働くべき?

重症筋無力症の場合、障害者手帳を持っていない方も多いですが、障害者手帳をお持ちの場合には、障害者雇用の枠で就職することもできます。そのため、一般雇用と障害者雇用のどちらの枠で就職を希望するか迷う方もいるでしょう。

障害者求人に応募するメリットとしては、希望の企業に一般の方が受けられない特別の枠で応募でき、障害があることを前提に配慮が受けられることがあります。業務内容や処遇の面で、自分の希望に沿わない求人しかないかもしれないというデメリットがあります。

難病患者では、障害者手帳がなく障害者雇用率制度の対象でない人も多く、一般の、自分の希望する仕事への就職活動をする人が多くいます。難病患者は、障害者求人でなくても、障害者手帳がなくても、企業の合理的配慮提供の法的義務の対象です。必要な配慮は就職先に伝え、無理のない働き方を確立していきましょう。

出典

  • https://www.gov-online.go.jp/article/202402/entry-5611.html

(2)面接

希望の職が見つかったら、就職のために面接を受ける場合がほとんどです。就職後のトラブルを避けるためにも、面接で伝えるべきことやその伝え方について考えておきましょう。

重症筋無力症であることを正直に話した方がいい?

「病気のことを打ち明けたら不採用になってしまうのでは?」という思いから、重症筋無力症であることを打ち明けるかどうか悩むという声はとても多いです。
このとき、病名や難病であることの開示・非開示を悩まれる方が多いのですが、大切なことは、「就労時に必要な配慮の説明」であることを意識しておきましょう。就職先の担当者は重症筋無力症について詳しく知らない場合が多いため、病名や難病であるということだけが一人歩きして伝わってしまうと、実態以上に重大なことだと受け止められ、不採用の方向に進むこともあります。
とはいえ、採用が決まってから配慮を求めると、業務内容や働き方に無理が生じ、お互いが困ることにも繋がりかねません。

そのため面接時には、企業内で具体的な合理的配慮があれば活躍できるイメージが分かるように伝えることが大切です。例えば、「重症筋無力症」という病名だけを伝えるよりも、「病気で疲れやすい」「途中で30分横になって休憩を取ることができればフルタイムでも勤務可能」など、できるだけ具体的に説明しておくことが大切です。このことで、採用する側も正しく理解することができます。

症状や職場環境の希望についての上手な伝え方は?

上記のように、自分の症状や必要な配慮について具体的に説明することが大切ですが、その際の話し方にもポイントがあります。
やりがちな悪い例として、「私は◯◯ができないので、△△の配慮をしてください」など、一方的に要求する言い方があります。このような伝え方をすると、相手はデメリットしか感じず、採用の可能性が下がってしまうでしょう。
そのため、「自分が活躍するには・問題なく業務を行うには、△△が必要です」など、ポジティブな視点から伝えることが大切です。

もちろん、どういう条件なら働けるのか、事前に自己理解を深めておくことも重要です。面接を受ける前に、医師、難病支援サポーターなどに相談し、必要な配慮を具体化しておきましょう。医師から就労に関しての意見書をもらう際には、具体的な仕事内容や勤務条件、心配事を伝えた上で、就労可能性や留意事項について意見を得て、就職先に提示することをおすすめします。こういった信頼度の高い書面があると、採用担当の安心材料にもなるでしょう。

(3)勤務

採用後、実際に勤務してから出てくる課題もあります。体調面はもちろん、人間関係や心情的な問題が起きないよう、上手なコミュニケーションの取り方についてもおさえておきましょう。

同僚には、症状や必要な配慮についてどう知らせたらいい?

実務に入ると、定期通院や休憩など、採用担当や上司以外の同僚ともコミュニケーションをとる必要が出てきます。そのため、同僚に病気のことをどう伝えるか悩む方もいるでしょう。

周りから「怠けている」などと誤解されて職場の人間関係が悪化してしまったり、逆に体調が悪い時に職場に気兼ねして休憩や早めの通院ができず体調を崩して結局、職場の負担となっている気持ちになることもよく聞きます。

厚生労働省の治療と仕事の両立支援ガイドラインにあるように、実務に入る前に主治医に業務内容を伝え、就労の際に配慮すべきことなどを意見書にまとめてもらうとその後がスムーズです。それをもとに、産業医や上司と相談し、どのように職場環境を整えると働きやすいかをプランニングしていきます。その中で、同僚からの理解を得るために、どのタイミングでどう伝えるかについても決めておけると安心です。

ただ、こういった体制をとることが難しい職場もあるかもしれません。その場合、業務で直接関わる同僚には、予め自分の状況や必要な配慮について具体的に伝えておくと、お互いにとって働きやすくなるでしょう。

職場で理解や配慮を得ながら働くための上手なコミュニケーション方法は?

難病で治療と仕事の両立に挑戦することには、企業は合理的配慮提供義務も課されています。しかし、職場では、あなたは「職場の仲間」であり、「難病患者として支援を受ける人」ではないことはあらためて言うまでもないでしょう。一時的に理解してくれる人がいても、周りに負担をかけ続けるような体制は長く続きませんし、難病患者自身も職場の負担になっていると感じることがストレスになっていることが多いです。そもそも合理的配慮は、職場にとって過重な負担でないことが前提です。

職場の仲間として、定期通院は何ヶ月毎なのか、なぜ、横になっての休憩が必要なのか、なぜ、夕方にはまぶたが落ちるのか、など、職場の人が疑問に思うことに分かりやすく説明することで、誤解での人間関係悪化も防げます。

職場には、子育て中、介護中、持病のある人等、様々な人がいます。「お互い様」の人間関係の中で、挨拶を行う、困っている人がいたら助ける、フォローしてもらった際はしっかりと感謝を伝えるなど、コミュニケーションの基本を大切にし、良好な人間関係を築いていきましょう。子育て中の人が多く働いている職場など、お子さんの急病や学校行事など、メンバーの急な欠席に対応しやすい体制づくりを進められるようになっているため、初めからそういった職場を選ぶことも一つの方法です。

(4)休業(治療による長期休暇、産前産後休暇、育児休暇など)

急な体調不良や、妊娠出産・育児のために休業が必要になることもあるでしょう。休業が決まってからではなく、事前に心構えや準備をしておくと気持ちの余裕にもつながります。

いつ体調が悪化するかわからないため、急な休業が心配

重症筋無力症では、急に体調が悪化して入院などが必要になる可能性があります。また妊娠した場合は、投薬の制限がかかることでさらに体調が悪化しやすくなる場合もあるでしょう。
このような事態に対応できるよう、普段から備えをしておくことが大切です。

まず、休業に関する就業規則や社内制度の内容を把握しておき、急な体調不良の際にすぐ手続きができるようにしておきましょう。業務についても、マニュアル化するなど、いつでも引き継ぎができるように整理しておくと安心です。

また、体調の変化を感じたり妊娠したりした際は、働き方について改めて主治医と相談することが大切です。必要な合理的配慮の内容が変わる場合には、なるべく早い段階で上司に伝え、無理なく働ける環境を整えましょう。

(5)復職

休業から復職する際にも、事前の準備と調整が重要です。その際のポイントを解説します。

復職初日までにやっておくべきことは?

休職時には、主治医から復職時期について見通しを聞き、早めに職場に休職期間の見通しを伝えておくことで、職場での復職までの手続きもスムーズになります。
復職が迫ってくると、体調面やスキル面などで不安が多くなるものです。そのため、復職が決まったら、復職日までに職場と相談し、その後の働き方について無理のないプランを立てることが大切です。
初日を迎えてから困ることがないよう、予め準備をしておけば、気持ちの面でも安心して復帰することができます。
治療上、体調が十分に回復しない場合でも、医師とも相談し、完全な体調回復を待つよりも、まずは体調管理がしやすい業務のみを行い様子を見て、一定期間問題なく働けたら元の業務に戻るなどの方策をとることも考えられます。勤務時間を日ごとに伸ばしていくという方法もあります。

もし退職勧告があったらどうすればいい?

病気の発症や悪化を理由に、職場から退職を促されることもあるかもしれません。自分だけでの対応が難しい時は、ハローワークの難病患者就職サポーターに相談すると解決できる場合もあります。ハローワークは職探しの支援機関だと思われがちですが、就労中の人も相談が可能ですので、ぜひ利用してみてください。

ただ、退職勧告されてからの対応は煩雑で大変なことも多いため、働き続けたい場合は、まずは勧告されないように動くことが重要です。体調不良で休業が必要になった場合などは、医師から「復帰が可能であること」「復帰可能時期の目安」を明文化してもらい、なるべく早く職場に共有するようにしましょう。このことで、職場も今後の見通しがつき、復帰の方向で調整してくれる可能性が高くなります。

病気があっても働きやすい社会に変革している今、
無理なく前向きに働こう

重症筋無力症を抱えながら就職や就労をしている患者さんには、苦労をされている方や、悩んでいる方が多いのが現状です。私自身、患者さんから直接お話を伺う機会もありますが、体調面はもちろん、周りの理解不足による人間関係の問題、収入面の不安など、様々なことで悩まれています。
しかし、昨今は難病のある方の雇用体制も整えられ、誰もが働きやすい社会へと変わってきています。まだまだ改善が必要な部分も多いですが、以前よりは、やりたい仕事に就き、続けられている方も増えてきています。ですから、自分の希望の仕事や働き方があるのであれば、ぜひ前向きに考え、挑戦してほしいと思います。そして、周りの人にも頼り、相談しながら無理なく続けてほしいです。
皆さんが希望を実現できる社会になるよう、私たちも支援する立場として一生懸命取り組んでいきます。

PROFILE

春名 由一郎さん

障害者職業総合センター副統括研究員。
厚生労働省厚生科学審議会難病対策委員会、厚生労働省委託事業「治療と職業生活の両立の支援対策事業」や「難病の雇用管理のための調査・研究会」に携わり、長年難病のある人の雇用・就労支援のための取り組みに尽力している。