重症筋無力症(MG)患者さん向け
部位別・身体ほぐしストレッチ
重症筋無力症(myasthenia gravis:MG※以下、MG)の影響で、身体を動かす機会が減ってしまったという患者さんの声を聞くことがありますが、筋は動かさないと硬くなってしまうため、できる範囲で身体を動かすことは大切です。とはいえ、反復的な動作で筋の力が入らなくなる症状(易疲労)がある中で、具体的にどのようなストレッチを取り入れるべきなのか、悩んでおられる方も少なくないでしょう。
今回は、患者さんが簡単にできるストレッチ方法を、理学療法士の寄本恵輔先生と加藤太郎先生に教えてもらいました。
患者さんが身体を動かすことのメリットとは?
MGとは厚生労働省の指定難病の一つで、反復的な動作によって筋がすぐに疲れて顔や手足等の筋に力が入らなくなったり、全身の筋力が低下したりする病気です。MGは治療選択がある神経難病ではありますが、病気の症状や徴候の一部またはすべてが軽快した状態でいることは多くありません。
患者さんの中には、症状の影響で身体を動かす機会が減ってしまい、身体を動かさないことで生じる関節拘縮などの合併症を抱える方もいらっしゃいます。
筋力を維持し日常生活の負担を軽減するためには、投薬治療と併行しながら、無理のない範囲で身体を動かすことが大切です。
ここでは、患者さんがストレッチを取り入れるメリットを2つ解説します。
(1)柔軟性UP
筋や腱を伸ばすことで柔軟性(弾性)が向上します。柔軟性を保つことは、手足を思うように動かせないことによる転倒や肉離れ、骨折などの怪我を防ぐことに繋がります。
ただし、体調が優れないときや易疲労の症状があるときに無理にストレッチをする必要はありません。体調の安定しているときに、準備運動をする感覚で取り入れると良いでしょう。
(2)リラクゼーション効果
ストレッチは身体だけでなく、心の健康維持にも寄与します。ストレッチを行うことによって、身体が活動モードから休息モードに切り替わり、リラックス効果が期待できます。
ストレッチの時間は数十秒でも効果があります。患者さんの場合は疲れやすいため、あまり時間を意識せず、無理のない範囲で行いましょう。
部位別・身体をほぐす簡単ストレッチ
患者さんにおすすめのストレッチを部位別に紹介します。実践する際には、体調を見ながら無理のない範囲で取り入れてください。
手首・指先
患者さんにおすすめの手首・指先のストレッチを紹介します。
手順
- 1片方の腕を伸ばし、手を前方に出します。
※難しい場合は、手を下に下げた状態でも大丈夫です。
- 2反対側の手で伸ばした手の指先を持ち、身体の方向に向けて引っ張ります。
ポイント
- ①の際、肘は真っ直ぐに伸ばしましょう。
- 手のひらの向きを上にした状態と、下にした状態の両方行うと効果的です。
- 握りこぶしを作ることで、腕の外側の筋をより伸ばすことができます。
腕
患者さんにおすすめの腕のストレッチを紹介します。
手順
- 1片方の腕を横に向け、反対側の肘で挟み込むように持ちます。
- 220秒ほどかけて下側の腕を横に引っ張り、上の腕の外側の筋を伸ばします。
ポイント
腕を引っ張る方向と同方向に身体をひねることで、より広範囲の筋をほぐせます。立って行うのが大変な場合は、椅子に座って行っても問題ありません。
胸
患者さんにおすすめの胸のストレッチを紹介します。
手順
- 1左右の手を背中側で合わせ、指を組みます。
- 2腕を後ろ側に引くことで、胸を広げます。
ポイント
腕の高さを上げすぎる必要はありません。イラストのような胸よりも低い位置など無理のない範囲で行いましょう。
頸(くび)
患者さんにおすすめの頸(くび)のストレッチを紹介します。
手順
- 1うつ伏せになって顎に両手のひらを添えます。
- 2両手で顎を支える(軽く持ち上げる)ことで、頸の筋を伸ばします。
ポイント
頬杖をつくような体勢で行うと効率的に伸ばせます。
脚
患者さんにおすすめの脚のストレッチを紹介します。
<ストレッチ①>
手順
- 1椅子に座ります。
- 2脚を組み、太ももの外側と殿部の筋を伸ばします。
ポイント
上にある脚を抱え込むようにすると、より伸びやすくなります。
<ストレッチ②>
手順
- 1真っ直ぐ立った状態で、片方の脚を後ろに引きます。
- 2ふくらはぎや太ももの後ろ側の筋を伸ばします。
ポイント
前に出した膝を軽く曲げ、後ろに出した脚はしっかり伸ばします。脚をゆらさず、同じ姿勢をキープしましょう。
<ストレッチ③>
手順
- 1椅子または床に座り、片脚を前方に出します。
- 2足先を持ち、身体の方向に引っ張ります。
ポイント
引っ張る際は、足首の後ろ側の筋を意識しましょう。
<ストレッチ④>
手順
- 1真っ直ぐに立ち、片方の脚を後ろ側に曲げます。
- 2曲げた脚の足先を手で持ち、上方向に引っ張ります。
ポイント
太ももの前側の筋を意識しましょう。立って行う場合は、転倒などに注意して行いましょう。ベッドなどに横になり、仰向けの状態で行っても問題ありません。
無理せずストレッチを取り入れよう
患者さんが簡単にできるストレッチ方法を部位ごとに紹介しました。しかし、全てを無理に行う必要はありません。MGは筋力低下そのものが主症状であるため、身体を動かしたくても動かせないときもあるはずです。そのような場合には、ストレッチよりも治療を優先してください。
治療と並行しながら、ご自身にとって無理のない範囲で身体を動かすことを意識すると良いでしょう。
PROFILE
寄本 恵輔 先生
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院 身体リハビリテーション部 第1理学療法主任
・理学療法士
・日本理学療法士協会 専門理学療法士(神経、小児、心血管、呼吸、糖尿病)
・日本理学療法士協会 認定理学療法士(神経障害、呼吸、代謝)
PROFILE
加藤 太郎 先生
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院 身体リハビリテーション部 理学療法士
・理学療法士
・日本理学療法士協会 専門理学療法士(心血管、呼吸、糖尿病)