自分らしく働くための『わたしのトリセツ』の作り方(前編)

わたしのトリセツ

明日の乾癬 by UCBCaresが提供する「暮らしのヒント」では、日本マンパワーとコラボレーションし、病気をかかえながらも、心のバランスを整えながら自分らしく働く「自分との向き合い方」についてアドバイスをお届けします。今回は「自分らしく働くための『わたしのトリセツ』の作り方(前編)」です。

治療で変化していく心身のコンディションと仕事を両立するために、大切なこととはなんでしょうか。患者さんご自身の現在とこれからの“よりよいキャリア(職業人生)”を見すえて、働きやすい環境を整えるために、『わたしのトリセツ』となるものを、キャリアカウンセラー・田代晋也さんと一緒に考えていきましょう。

自分らしく生きるための“よりよい働き方”を考えるということ

病気を抱えながら、日々の仕事をこなしていくことは、身体面、精神面にさまざまな変化を及ぼします。キャリアカウンセラーの田代晋也さんは、半導体メーカーで設計開発現場の最前線で働いていた40代半ばに難病を発症。それまで当たり前にできていた業務ができなくなる事態に直面したそうです。そのときあらためて自分と向き合い、会社と何度も話し合いを設け、環境の変化に対応しながら、“自己変容”を続けてきました。そういった経験を活かし、キャリアカウンセラーに転身後は、難病の方の就労支援を積極的に行っています。

今回は、そんな田代さんに、自身の経歴を交えながら、多くの人たちに寄り添い、導き出したよりよい働き方・生き方を考えるヒントを教えていただきました。

「自分」を知ることから始めよう。「レジリエンス」の6つのプロセスを実践

症状によって体調やメンタルには波があり、心理的な不調が続くと、仕事や治療の継続が困難になることがあります。受け入れがたい事実がどんどん出てきて、無力感や絶望感を感じ、自分を否定したくなります。私の場合は、病気を抱える自分を受け入れるのに5年ほどかかりました。その5年間を振り返ってみると、これからご説明する6つのプロセスを、試行錯誤しながら実践していました。この6つのプロセスが、今回のお題にある『わたしのトリセツ』を作るための材料となるはずです。

まずは、心理学で注目されている「レジリエンス(Resilience)」という考え方をお話ししましょう。レジリエンスとは、しなやかで柔軟な考え、精神的な回復力といった意味で、さまざまな困難によって精神的ストレスがかかった時に、はね返し、立ち直ろうとする力のことを表しています。私はこのレジリエンスを、「治療と仕事の両立のカギ」となるものと考えています。そしてそこには6つのプロセスがあると考えています。

このプロセスは、①から⑥まで順番に行うのもいいですが、大切なのはどこからでもいいので、6つのプロセスを、納得のいくまで繰り返し実践することです。その結果、病気と自分そして職場環境に焦点を当てるプロセスの中で、病気を受け入れ、治療と仕事の両立する意思が芽生え、自分らしく生き生きと社会で活躍する姿を、自ら描くことになるでしょう。

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① 自分の「軸」を知る

自分の「軸」というのは、価値観、大切なもの、譲れないもの、自分の信念ともいうべきものです。“自分の「軸」は何か?”の答えをすぐに導ける人は少ないかもしれませんが、これまでに携わってきた仕事や無我夢中になったこと、心が揺れ動いたことなどを振り返り、エピソードとして書き出してみたり、語ってみたりするといいでしょう。きっと、そこにはあなたが行動を起こした何か共通の意味があり、それが自分の「軸」を知るきっかけになります。

自分の「軸」を知る方法のひとつに、「仕事の棚卸し」があります。これまでに経験した仕事の内容を時系列に抽出し、その時に心がけたことや感じたこと(心の揺らぎ)、失敗を克服したこと、業務実績などを書き出してください。自分の仕事の流れ、こだわり、大切にしていたこと、そして、あなたの社会人としての強みや弱み、成長過程を客観視することができます。 この自分の「軸」は、予期せぬ出来事や問題が生じたとき、解決に向けた勇気ある第一歩を踏み出すためのエネルギー源になることでしょう。

② 自分のライフスタイルを描く

これからの自分の「ライフスタイル」を描いてみましょう。治療がなかなか計画通りに進まないことは往々にしてあります。だからこそ、健康的なライフスタイルを維持するために、治療、仕事、余暇などを含む、自分が思い描く理想の暮らし方、生き方を考えて、これからの人生をどう“幸せに”過ごしていくかを考えてみましょう。

どうしても描けないという方は、乾癬の患者会や交流会を通じて、病気とうまく付き合っている方をモデルにするのもいいですね。「ライフスタイル」は、自分で創る人生の道標になることでしょう。

③ セルフマネージメントを身につける

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やりたいことをやるためには、病気の悪化・進行・再燃を抑えることが大切。そのためにも自ら体調や症状を管理するという考えの「セルフマネージメント」は必要不可欠です。特に睡眠、適度な運動、バランスが取れた食事は「セルフマネージメント」を実践する基礎になります。

また、定期的な通院、決められた薬を忘れずに飲む、薬の効果や副作用を知った上で行動する、ストレスから身を守るリラクゼーション、焦らずに体調の回復を待つ忍耐力、就労では無茶・無理をしない、やる気の入れ方、休憩の取り方なども、すべて大切な「セルフマネージメント」になります。

④ 柔軟な思考(しなやかな思考)を持つ

ストレスへの対処や、目の前の問題を解決するには、“しなやかな思考を持つ”ことが大切です。ひとつの見方や価値観にとらわれず、多角的な視点から現状を見つめてみましょう。

例えば、職場で配慮を求めるため周囲に自分の病気を開示することは、偏見・差別といったデメリットが頭に浮んでしまいがちです。そこで、開示する「目的」という視点に立ちメリットの方が大きいと考えると、周りに理解してもらい、配慮を受けることで、「病気だからできない」ではなく、「病気でもできること」があり、周りの人に役に立つことを認めてもらう。この柔軟な思考を持つことから学んだことは、社会での「自立」につながるでしょう。

⑤ 対応力をつける

対応力は、想定外の出来事やトラブルを適切に判断したり、周囲の状況を把握しながら対処できる能力のことをいいます。なかなかすぐに対応力をつけることはできませんが、私から言えることは、焦らないことです。対応力を身に着けるには、目の前の問題解決に向けて努力し続けることが大切です。たとえ失敗しても克服していく努力が、対応力を身に着ける近道と考えます。

⑥ コミュニケーション力をつける

①~⑤を自分の中に見出せるようになると、主治医や職場などの周りの人たちと、良好な関係性を築くことに自然と目を向けられるようになります。「相手の話を聴く力、相手に自分の想いをわかりやすく伝える力」といった、自分のコミュニケーション力を過去の経験から振り返ることも大切です。ぜひ、自分の意思を、自分と相手の両者を尊重しながら伝えるコミュニケーション能力「アサーション(Assertion)」を学んでみてはいかがでしょうか。

ひとりで抱え込まない。仲間との交流や、プロの力を借りるのも一手。

自分と向き合ったり、会社と交渉したりすることは、たやすいことではありません。病気の自分を受け入れて仕事を継続していく方法を導き出せるまでには、時間がかかる場合もあります。それを自分で見出せずに苦しまれる人も少なくありません。

そこで大切なのが、ひとりで抱え込まないことです。たとえば「患者会」など、同じ境遇の仲間やロールモデルなどを持つ方々と交流を持ち、情報収集や意見交換を行うと、道が拓けてくることがあります。 また、キャリアカウンセラーなどのプロに相談してみるのも一手です。あなたの併走者として、心の奥にある本当の思いを導き出しながら、客観的な視点でキャリア成長の道筋をつける一助になってくれるはずです。

田代先生が所属されている「日本キャリア開発協会(JCDA)」では、「30分無料相談」も行っているそうです。もしいま仕事と治療の両立で悩んでいる……という方は、キャリアカウンセラーに相談してみると、多角的な視点がもたらされ、自分らしく働き続けるための新たな気づきが得られるかもしれません。

両立支援カウンセリング(30分無料) https://www.j-cda.jp/about/hatarakikata/counseling.php

日本マンパワー

一人ひとりが、望ましい生き方・働き方を選択し、自己のキャリアを主体的に形成・発展することを通して、社会全体の進歩と成熟を図る。それが日本マンパワーの目指すところです。『「はたらく」に自分らしさを 誰もが夢中になれる社会を』という思いのもと、国家資格であるキャリアコンサルタントの養成や、企業向けのキャリア開発研修を中心に、これからを生きる人と組織のキャリア形成支援を行っています。

PROFILE

田代晋也さん/キャリアカウンセラー

現在、NPO法人熊本難病ネットワーク専務理事、NPO法人日本キャリア開発協会(JCDA)両立支援推進熊本担当(令和3年度)。半導体メーカーで製品企画開発、特許技術審査員兼相談員などを経験。退職後は公的就労支援機関を経て、特定非営利活動法人熊本県難病支援ネットワークに入職。難病患者を対象とした治療と仕事の両立支援に従事している。

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