皮膚症状を悪化させないために日常生活で気をつけると良いこととは | 乾癬治療【明日の乾癬 by UCBCares】

専門医に聞く乾癬治療

皮膚症状を悪化させないために
日常生活で気をつけると良いこととは

お話を聞いた先生はこちら

札幌⽪膚科クリニック
院⻑

安部正敏
先生

乾癬の治療は外用療法(塗り薬)が基本です。そして治療と併せて、日常生活で皮膚の保湿や保護を心がけることも大切です。
しかし、正しい知識を持たずに自己流で行っていると逆効果になってしまう場合もあります。
日常生活の中で、患者さんがどんな工夫をしたら良いか、自分でできることは何か、
札幌皮膚科クリニック 院長 安部正敏先生にアドバイスをいただきました。

皮膚を刺激しないように注意して
「ケブネル現象」を防ぐ

乾癬では、外からの刺激により正常な皮膚に新たに乾癬の症状が現れることがあります。「ケブネル現象」と呼ばれ、皮疹がない部位に刺激が加わるとその部位の皮膚に皮疹が生じたり拡がったりする現象です。
刺激とは、摩擦や掻破そうは、伸展などの物理的な力が加わることで、簡単に言えばこすったり、引っ掻いたり、伸ばしたりすることです。特に肘や膝のような外的な力が加わりやすい部位には、ケブネル現象が多くみられます。窮屈な服を着る、服の縫い目がごわごわして皮膚に刺激を与えている、ベルトで身体を締め付けるといったことも、外部からの刺激となりますので注意が必要です。
ケブネル現象にはいくつかの誘因があります。それを防ぐために日常生活で注意するポイントをお話しします。
ちなみにこれらは乾癬患者さんに限らず、皮脂欠乏性湿疹などの皮膚の病気の予防にもなるので、実はすべての方にやっていただきたいことでもあります。

●冬場のアドバイス
冬の寒い時期には特にドライスキン(乾燥肌)に注意が必要です。ドライスキンそのものが乾癬を悪化させるわけではありませんが、「ドライスキンがケブネル現象を誘発する」ことが明らかになっています。皮膚が乾燥していると痒みを招き、結果、患者さんが皮膚を掻くことから乾癬の悪化につながります。
ドライスキンによる痒みに対して、ご自身でできる対策としては「保湿」があります。簡単に「ドライスキンと痒みの関係」について、お話いたします。
皮膚の保湿には、表面の皮脂膜、中のセラミド、天然保湿因子の3 つが重要なファクターとなります(図左)。そもそも冬は外気が乾燥していることから、皮膚の水分が蒸発します。そしてコロナ禍以降は、特に手洗いが強く奨励されるようになった結果、皮脂膜が少なくなる傾向にあります。また年齢を重ねると、脂質であるセラミド、天然保湿因子は減少します。
これらの要因によってドライスキンになると、痒みを感じる神経が表面に伸びてきて刺激を受けやすくなり(図右)、痒みが出現しやすくなることがわかっています。
それを防ぐには、保湿剤がお勧めです。市販の保湿剤で十分ですので、可能であれば1 日2 回位は保湿剤を使うことが有効です1)。保湿剤を塗ることで、乾癬の症状を補助的に抑えることが可能です。保湿剤を塗るのが大変だという方には、私は保湿効果のある入浴剤の使用を勧めています。

●入浴時のアドバイス
ケブネル現象は摩擦によっても起こります。ゴシゴシ身体をこすると汚れがたくさん落ちて気持ちが良さそうですが、ナイロンタオルのような摩擦力の大きなもので身体を洗うと皮脂膜やセラミド、天然皮脂膜なども剥がしてしまいますし、物理的にこすることでケブネル現象を誘発します。身体を洗う際は、できるだけ摩擦の少ないものが良く、私は日本手ぬぐいや手で洗うことをお勧めしています。
風呂の温度は、熱過ぎると過度な刺激となって引っ掻きたくなりますし、逆に低く過ぎても血管が収縮してやはり痒くなるので、ややぬるめの39 度位を勧めています。
ドライスキンには入浴剤もお勧めとお話ししましたが、入浴剤なら何でも良いわけではありません。たとえば温泉入浴剤の中には硫黄が入っているものがありますが、硫黄は皮膚を乾燥させるので逆効果になります。入浴剤の成分にも着目し、セラミドや米糠など保湿に役立つ成分が入っているものを選んでください。
また、風呂上りの保湿剤の使い方ですが、脛や足先、指先などは乾きやすいのでよく塗っておくことをお勧めします。

図 通常の皮膚とドライスキン(イメージ)

石鹸やシャンプーの使い過ぎに注意
顔も体も、よく泡立ててやさしく洗う

●洗髪時のアドバイス
シャンプーの時に指を立てて頭皮をゴシゴシこすると、やはりケブネル現象を誘発します。
少量のシャンプーを良く泡立てて、地肌に広げるように指の腹でやさしく洗ってください。そして十分にすすぎをしてください。
また、頭皮には乾癬によく似た病態の脂漏性皮膚炎ができやすいのですが、この皮膚炎を起こす原因となる毛孔に存在するカビは乾癬にも悪い影響を及ぼします。可能であれば抗真菌作用のあるシャンプーを選ぶと良いでしょう。痒みが強い場合は保険診療で購入できるステロイド配合の医薬品シャンプー製剤もあります。

●手を洗う時のアドバイス
石鹸をたくさん使ったほうがきれいになると考えて液体石鹸のポンプを何度もプッシュする方がいらっしゃいますが、石鹸の使い過ぎも良くありません。
量はワンプッシュで十分なので、それをしっかり泡立ててください。泡立てると「ミセル」というものが作られます。ミセルにより、皮脂を過剰に落とすことなく汚れは良く落とすことができるようになります。
そして十分にすすいだ後に、伸びのよい保湿効果のあるハンドクリームを塗ってください。

強い紫外線や汗の塩分も
皮膚への刺激になることを知る

●紫外線の防御
紫外線は乾癬の治療に使うこともあるので(光線療法)、乾癬患者さんの中には「紫外線は、乾癬治療にとって良いもの」とプラスのイメージを持っている方も多く、日光浴をしたり、半袖半ズボンでウオーキングしたりする方がいらっしゃいます。実際、私も「日光浴はただでできる治療」として、お勧めもしています。
日光浴やウオーキング自体は非常に良いことなのですが、一方で、紫外線にはがんなどを誘発する有害な波長も含まれています。できるだけ日差しの強い日中は避けて、朝や夕方に行うことをお勧めします。また、その際は必ずサンスクリーン剤(日焼け止め)を塗ることが重要です。
時々、誤解されている方がいらっしゃるのですが、「サンスクリーン剤を塗ると紫外線がカットされてしまう」と考え、素肌のまま日光浴やウオーキングをされることがあります。しかし、これは大きな間違いです。サンスクリーン剤というのは、有害な紫外線を除去するものであり、がん等にならないよう皮膚を守ってくれるものですので、肌が露出している部分には、ぜひしっかり使いましょう。
また、サンスクリーン剤を選ぶ際には、紫外線防御指数のSPF やPA を確認してください。SPF20 ~ 30、PA++ ~+++ 程度を目安にすると良いでしょう。サンスクリーン剤をしっかり塗った上で、紫外線の効用をたっぷりと享受していただきたいと思います。

●発汗時の注意点(夏・冬)
夏はどうしても汗をかきますが、そのままにしているとそれらが皮膚の刺激となります。一方、冬場においても着込み過ぎると汗をかくことがあるので、気を付けたいものです。汗をかいた後は、シャワーを軽く浴びることをお勧めします。
また、肌着は摩擦の少ない滑らかなもの、吸湿性や速乾性の機能があるタイプのものを選ぶと良いかもしれません。

皮膚だけじゃない。身体の内側からも乾癬対策

日常生活において、自分でできる乾癬対策の1つに食生活の見直しがあります。肥満と乾癬悪化は大いに関係があり、乾癬を悪化させるTNF-αを産生している内臓脂肪を減らすことも重要です。TNF-αは薬で抑えることはできますが、やはり日頃の食生活がベースにあると思います。
内臓脂肪を減らすためには、揚げ物などカロリーの高い食事は控えめにします。またキムチなどの刺激の強い食品や香辛料、熱いスープやアクの強い野菜などは、痒みを誘発したり増強しますので、痒みの出やすい方は避けたほうが良いでしょう。

過度に神経質になっても逆効果
生活を楽しむことを大切に

乾癬と向き合うためには、これまでお話ししたような日常生活の中で自分でできる工夫をするとともに、医療機関での治療が必須です。治療はまず外用療法が基本となります。
医師の中には軟膏が減っていないのを見て、「ちゃんと塗ってくださいね」と患者さんを指導される先生もいます。患者さんによっては、そうした管理をきちんとしてくださる先生のほうが良いという方もいらっしゃるでしょう。しかし患者さんにとっては、仕事や家事をしながら毎日きちんと薬を塗ることは大変なことだと想像します。
私は、その患者さんが乾癬にかかり何に一番困っているかをまず伺い、アドバイスをします。たとえば「毎日きちんと塗るのが難しかったら、せめてここだけは塗りましょう」と、できることをやっていただくようにしています。それでも良くならないようであったら、光線療法や内服療法そして生物学的製剤の注射といった次の治療法を提案します。
また、患者さんにデータやエビデンスをお伝えしながら納得感を持っていただけるよう診療を進めることがとても重要です。ご本人が少しずつ乾癬に対する理解を深め、不安を解消しご自身が出来ることをやっていく、そうした気持ちを後押しし、医療の面でしっかり支えるのが医師としての私の役割です。
医師の考え方や診療スタイルもそれぞれですから、正解はありません。患者さんは自分に合った主治医を見つけ、良好なコミュニケーションを取って、二人三脚で治療を行っていくことが重要です。

これまで挙げた日常生活のアドバイスは強制するものではなく、「こうしたほうが良い」というものです。過度に神経質になってすべてをやろうとするとプレッシャーになるのは良くありません。患者さんそれぞれができる治療やケアを行い、人生を楽しむことが最も大切なことでしょう。

参考 1)大谷真理子 他: 日本皮膚科学会雑誌. 2012; 122(1): 39-43

「Rebrand Yourself 2023 Vol.4」2023年 10月掲載

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