診察室の参観日 東海大学医学部付属病院 皮膚科 | 乾癬治療 【明日の乾癬 by UCBCares】
診察室の参観日
東海大学医学部付属病院 皮膚科
神奈川県伊勢原市
提供:
東海大学医学部付属病院
乾癬とメタボリック症候群(以下、メタボ)※との関連が注目される中、メタボを合併した患者さんに対し、東海大学医学部付属病院皮膚科では、管理栄養士と連携した食生活を含む生活習慣の改善など積極的な継続指導を行っている。同院で皮膚の症状にとどまらないトータルな乾癬治療に取り組む馬渕智生先生に自己免疫性疾患としての乾癬治療について伺った。
東海大学医学部付属病院の新規の乾癬患者さんは年間でおおよそ20 ~ 30 名、通院中の患者さんは300 ~ 400 名だ。皮膚科診療科長の馬渕智生先生によると、「ここ10 年ほどは、目立った増減はない」という。患者さんは、一般的な統計同様、同院でも男性のほうが多い。年齢は20 歳を過ぎたあたりから徐々に増えていき、中高年世代が最も多くなる。軽症患者さんは少なく、中等症から重症の患者さんが主体だ。合併症や併存疾患も多く、患者さんの2 割弱は乾癬性関節炎を、3 ~ 4 割はメタボを合併している。
皮膚科外来は平日午前中に行われているが、それとは別に乾癬の専門外来を週2 日午後に開設しており、両日とも馬渕先生が担当している。また同じ日に、乾癬患者さんを主な対象とした光線治療の専門外来も開設しており、連携を取り合いながら診療にあたっている。現在国内で可能な治療法はすべて施行できる体制を整えており、「患者さんに合わせた最適な治療を選択する」というのが馬渕先生のモットーだ。
日本の乾癬患者さんの約40%は肥満、約25%はメタボとされており、メタボを合併した患者さんは、乾癬の症状が悪化することも知られている1)。また、乾癬の発症原因は現在においてもはっきりとは解明されておらず、患者さんそれぞれによって発症因子は異なる。そしてその中の1 つとして、乾癬患者さんの中にメタボを合併している人が多いことから、メタボも発症因子、悪化因子ではないかと考えられ、国内外で多くの研究が行われてきた。その結果、現在ではメタボと乾癬の関連は定説となっている。2)
そもそも肥満になると、脂肪細胞がサイトカインを産生し、それによって身体にさまざまな弊害を起こすことは以前から知られていた。サイトカインは細胞から生産・分泌される物質で、情報を伝達し、免疫細胞を活性化させたり抑制したりする働きがある。たとえば血管が固くなって動脈硬化を起こしやすくなる、インスリン抵抗性や耐糖能異常が起こって糖尿病を発症しやすくなる、などはサイトカイン産生の弊害だ。そして乾癬との関係についても、肥大化した脂肪細胞ではTNF αやIL-17、IL-23 といったサイトカインが過剰に産生され、皮膚に炎症を起こす(図)。
逆に乾癬患者さんが肥満になりやすいかについては、馬渕先生は「直接の因果関係はないのではないか」と言いながらも、「一度悪化のサイクルの中に入ってしまうと、相互に悪影響を及ぼすことはあるかもしれない」と話す。乾癬が肥満症を悪化させるかはともかく、乾癬と肥満が合併すると心筋梗塞のリスクが更に増加するという報告があり3)、いずれにしても良い影響はない。
肥満やメタボが一因で乾癬に罹ったのなら、「メタボを改善する、あるいは減量して肥満を解消することができれば、少なくとも乾癬の皮膚症状は改善します」と馬渕先生は語る。乾癬は一度発症してしまうと完治は難しい病気だが、症状の改善や完解は十分可能なのだ。
乾癬患者さんには勉強熱心な人が多く、馬渕先生は実際に患者さんと接する中で、「最近は患者さんにもこの知識が普及してきている」と感じるそうだ。
「患者さんによって、“節制していた時”、“運動していた時”と言い方はさまざまですが、メタボや肥満を意識して何かしらの対応をしていた時期は皮膚の状態がもっと良かったと言う方が増えてきました。そんな方たちからは、今は忙しくてできていないので悪化しているが、またダイエットや運動を再開したいという声をよく聞きます」(馬渕先生)。
もちろん、意識して節制や運動を継続しているので皮膚が良い状態に保たれていると嬉しそうに報告してくれる現在進行形の患者さんもいる。実際、肥満気味の人にこの知識を伝えると、ほとんどの人は前向きに「やってみたい」と言うが、中には継続できずに諦めてしまう人もいる。いかにして節制や運動を継続していただくかが、今後の課題だという。
同院は総合病院なので様々な診療科や部門があり、患者さんのメタボ対策は連携して行われている。
皮膚科では初診の乾癬患者さんが受診した際、まず血液検査・尿検査を行い、糖尿病、脂質異常症、肝機能障害などの有無を確認する。そしてそれらの病気が見つかれば内科などの専門科に連絡して、併診という形で治療を進める。
それらの病気がなくても皮膚科医が身長・体重から肥満と判断した場合は、患者さんに肥満が乾癬に及ぼす悪影響を説明して改善を促す。この際、肥満の程度が軽い場合は食事指導用のパンフレットなどを渡して実践を促すが、重い場合は管理栄養士による栄養指導を受けることを強く勧め、患者さんが同意すればその場で予約する。管理栄養士による外来栄養指導は個別に行われており、1 人あたり約30 分。管理栄養士は患者さんから現在の食生活の内容や運動の状況を聞き取り、それを基にその人に合った具体的な指導を行う。
指導後の評価も重要で、管理栄養士がその場で皮膚科の次回受診日に合わせて栄養指導の再診予約を入れておく。こうして、皮膚科、栄養科が連携して治療・指導を継続していくことになる。むろん皮膚科で血液検査等を行った際は、その数値等も栄養科と共有する。
馬渕先生が患者さんに栄養指導の受診を勧める際に気を付けているのは、「家族も一緒に指導を受けてもらう」ことだ。中高年世代の男性の場合、食事は家族が作っているというケースが多く、食生活の改善には実際に食事を作っている人の協力が欠かせないからだ。
メタボの状態が重度であるが改善意欲を見せないような患者さんには、馬渕先生は時には深刻な話をすることもあるという。「乾癬は直接命にかかわる病気ではありません。しかし脂質異常症は心筋梗塞・脳梗塞を起こしやすく、命が助かっても麻痺などが残ることもあります。糖尿病は進行すると失明や人工透析の恐れがあります。患者さんの中にはもっと危機感を持っていただいたほうが良いケースもあるので、実際に起こり得る可能性の話をすることもあります」(馬渕先生)。
乾癬は慢性疾患であり、患者さんだけでなく家族も含めてつらい思いをすることも多い。
しかし馬渕先生は、「医療の進歩によって、症状をうまく抑え込むための治療法は選択肢がかなり増えてきました。また、メタボなどの併存疾患、あるいは合併症を改善させていくことによって、乾癬の皮膚・関節も良い状態に保つことができることがだんだんわかってきました」と希望を語る。「それぞれの患者さんによって悪化させる原因は違います。異なる悪化因子を1 つずつ、根気強く治療していくことによって、良い状態に保つことができます。諦めずに引き続き一緒に頑張っていきましょう」と患者さんに呼び掛ける。
※ 内臓脂肪型肥満に加えて高血圧、糖尿病、脂質異常症のうちの2つ以上を合併した状態
参考:1) Takahashi H, et al: J Dermatol. 2010; 57(2): 143-144
参考:2)Langan SM, et al. J Invest Dermatol. 2012; 132(3 Pt 1); 556-562
3)Boehncke WH, et al: Exp Dermatol. 2011; 20(4): 303-307
すすめたいと思う度合を0-10で表して下さい