診察室の参観日 山口大学医学部附属病院 皮膚科 | 乾癬治療 【明日の乾癬 by UCBCares】
診察室の参観日
山口大学医学部附属病院 皮膚科
山口県宇部市
提供:
山口大学医学部附属病院
山口大学医学部附属病院の皮膚科で乾癬治療を主導する山口道也先生。
大学病院として最新の治療に取り組んでいるが、
そのベースにあるのは『ソムリエ的マインドに基づいた乾癬治療』だ。
NBM(Narrative Based Medicine)※を重視し、一人ひとりの物語に耳を傾け、
患者さんの希望や日常生活での困り事を一緒に考えながら、最適な治療を提案することを基本方針としている。
山口大学医学部附属病院の皮膚科に通院している乾癬患者さんはトータルで250 名ほどいるが、その内の約200 名を山口道也先生が担当している。同院の新患の乾癬患者さんは年間約50 名で、近年、緩徐な増加傾向がみられるという。患者さんの平均年齢は約60歳。男女比はおおよそ2.5:1 と、一般的な統計と同様に男性が多い。大学病院ということで紹介患者さんも多く、最近の傾向として乾癬性関節炎の患者さん、また生物学的製剤による治療を希望して紹介されてくる患者さんが増えているという。その背景を山口先生は、「かかりつけ医の先生方の間で乾癬に関節炎が合併しやすいということが浸透してきたこと、また患者さんの間で生物学的製剤の認知度が向上しているからではないか」と推測する。
山口先生の治療方針は、「大学病院として、できるだけ最新の治療薬を積極的に使用する」ことだ。もちろん、従前からある外用治療、内服治療、紫外線治療も大切で、あくまでそれぞれの患者さんに適した治療を行うことが前提だが、その上ですでに140 名程が生物学的製剤による治療をしている。
「患者さんが希望し、医学的に適応すれば、生物学的製剤を使います。またたとえ軽症であっても、患者さんにできるだけ多くの治療法を紹介・説明しておくことは大事だと思います。患者さんが希望されれば、常に最新の治療が受けられるよう準備しています」と語る。
山口先生は、『ソムリエ的マインドに基づいた乾癬治療』を提案し、実践している1)。ソムリエとは、レストランで客の要望に合わせてワインを選ぶプロフェッショナルだ。そんなソムリエと自身の診療行為が重なり合うという。
ソムリエはまず、それぞれの料理に合わせて適したワインを考える。そして、一人ひとりの客の好みを聞き、予算面も考慮しながら、その中から最適なワインを提案する。これを乾癬治療に当てはめると、医師はソムリエであり、最適と思われる治療法を提案し、話し合い、最終的に患者さんに選択してもらう、ということになる。
ただし、医師は患者さんの希望する治療が医学的に適切でない場合は、もちろん行うことはない。
このように個々の患者さんと話し合いながら、その人が希望する最適な治療法を提案している山口先生だが、ときどき困るのが治療費のことだという。かかりつけ医から「生物学的製剤の注射が良い」と勧められて紹介されて来たものの、費用のことまで聞かされていなかったという人がいるのだ。山口先生から初めて費用の話を聞いて、「注射はしたいが子供が受験なので経済的に厳しい」「家族がいるので、そこまで自分の治療にかけられない」など、それぞれに事情があり苦悩する患者さんもいる。そんな時、山口先生は、高額療養費制度や健康保険組合の中には付加給付制度がある場合もあることを説明しており、「それならできそうだ」となるケースもあるそうだ。
「医療費制度のことは事務と相談してくださいと言ったら、諦めてしまう方もいるでしょう。費用のことも含めて医師がトータルに話すことが、患者さんの治療意欲につながると実感しています」と山口先生はあくまで患者さんに寄り添っている。
このように患者さんと話し合い、患者さんの希望を尊重するようになった理由を、山口先生は2つ挙げた。
1つ目は、山口先生は皮膚科医として診療を行う一方で、2014 年より『医療の質・安全管理部』での仕事も行っていることだ。以来、「医療の質の向上」に取り組むことも仕事の1つとなり、診断・治療などの日常診療に加えて、患者さんの治療満足度を高め、生活の質を改善することも大切であると考えるようになったという。
もう1つ、更にさかのぼって高校生時代、内科医をしていた父親から聞いた「医師が患者さんを治すのではない。患者さんが治るのを助けるのが医師の仕事だ」との言葉の影響も大きいという。医師になってから、時には「自分が治してあげた」と思うこともあったというが、そんな時には父親のこの言葉を思い出して自分を戒めてきたと振り返る2)。
物語と対話による医療山口先生の診療のスタイルは、PCM(Patient Centered Medicine:患者中心の医療)といえる。そしてPCM を実現するために重要になるのが、NBM(Narrative Based Medicine:物語りと対話に基づく医療)3)の実践だ。
診療においては、まずは患者さんが語る「物語」を傾聴する。「物語」とは患者さんの現在を含めたこれまでの歴史であり、「患者さんが話す言葉の中には、治療方針を決めるにあたって無駄なことは1つもない」と考えるからだ。患者さんは病気のことだけでなく家族や趣味の話をすることもあるが、それらが治療法の選択につながることも多い。この話を講演会等ですると「短い診察時間でどうやっているのか」と聞かれるそうだが、1 回の診療で患者さんとの話を完結する必要はない。カルテに書き留めておいて次の診察時に「あの話はどうなりましたか」と聞けば、患者さんも「自分の話を覚えていてくれた」と安心され、信頼関係の構築にもつながっていくという。
こうした「物語」の傾聴と対話を重視しながら、目の前の患者さんの抱える問題を全人的に捉えていく、まさにNBMを実践した診療だ。
また患者さんには、「困っていることをできるだけ具体的に伝えて欲しい」と希望する山口先生。たとえば、ある部位に皮疹が残っている場合、「治らないですか?」とただ聞くのではなく、そこに皮疹があると「日常生活でどんな困り事があるか」を話して欲しいと要望する。現在の治療では治せないものもあるが、生活上の困り事なら解決方法を一緒に考えることができるからだ。患者さんの中には、「医師に日常生活のことなどは話してはいけない」と考える人がいるかもしれないが、山口先生はむしろ話してくれることを望んでいる。
そして乾癬の治療は長期にわたるので諦めてしまい、良くならないが悪くもならないなら「今のままで良い」という患者さんが一定数いる。このような患者さんは、「困り事はない」として、新しい治療法を説明しても関心を持ってくれないこともある。それでも何かの拍子に変わってくれることを期待して粘り強く働きかけているそうだ。
治療においても、新しい治療法が出そうだ、あるいは出たという時には、極力多くの患者さんに話すようにしているという。患者さんが治療に関心を持つことを期待してのことで、もし今の治療法が効かなくなっても大丈夫だという安心感にもつながっていく。
生物学的製剤が著効して症状が改善している患者さんに対して、山口先生は「定期的に通院しているから良い状態が維持できています」と言う。「薬が効いているから」と言うとすべて薬のおかげとなってしまうが、通院しているという「患者さんの行動」も含めて評価することで、モチベーションの維持につながるからだ。
「生物学的製剤に限らず、定期的に通院して治療を受けている患者さんは、みなさん頑張っていると思います。患者さんそれぞれに合った治療法が必ずあるはずです。日常生活での困り事は、治療を変えることで改善することもあります。信頼できる医師を見つけ、対話しながら治療を継続してください」と語る山口先生。医療者と共に患者さん自身が治療者となり、積極的に治療に関わることが何よりも良い結果につながっていくという。
※ 「物語りと対話に基づく医療」。医師は疾患を診ると共に、患者が語る「物語り(生活や人間 関係など)」も踏まえ全人的にアプローチしていこうとする考え方。
1)山口道也:西日本皮膚科. 2021; 83(3): 248
2)山口道也:臨床皮膚科. 2014; 68(5): 130
3)トリシャ・グリーンハル他 編, ナラティブ・ベイスド・メディスン 医療における物語りと対話.金剛出版,2001. p252-269
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